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アリババが中国を代表する銀行になる日

2013年6月、中国最大のEコマース企業アリババが傘下のオンライン決済サービス「アリペイ」を通じ、金融サービスとして個人向けにMMF(マネー・マーケット・ファンド、「余額宝」が商品名)の販売を開始した。

その僅か半年後の2013年12月末、その運用残高は2.7兆円(1,853億元)を超えた。中国に約80本あるMMF商品の中で、第2位の運用残高を誇る規模にまで急速に成長したことになる。

この「余額宝」、商品としては一見普通のMMFなのだが、中国でも既存大手金融機関のビジネスモデルや常識をネット企業が覆すという、大きなうねりを感じさせる商品である。ユーザはアリペイのアカウントを持っていれば、そのアカウント内から自由な金額を余額宝に移すことができ、それが即ちMMFを購入したことになる。

余額宝は最低1元から購入が可能で、既存金融機関のMMF商品が設定しているような最低購入額の制限がない。購入・売却(アリペイもしくは現金に戻す)にかかる手数料は無料。勿論24時間いつでもPC/スマホ上で購入及び売却は可能だ。また、MMFを売却し現金化する際には数日のタイムラグが発生するのが通常だが、アリペイに戻すだけなら売却は瞬時に反映されるため、すぐにその資金を使うことができる。

このように、ネットが持つ圧倒的なコスト競争力と顧客基盤を武器に、既存金融機関ではなかなか太刀打ちしにくいビジネスモデルと利便性を実現しているのが、「余額宝」である。

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※ MMFなので利率は変動するが、直近の利回りは6.737%。ちなみに一般の銀行定期預金は約3%。

なぜこれほど急激に余額宝は人気を博したのか?

アリペイアカウントは今ではほとんどのネットユーザが保有しており、オンラインショッピングでの利用に備え、アカウントに常にある程度のアリペイ残高を滞留させておくことは普通である。

現金をアリペイにわざわざ替え、かつそのアカウントに資金を常に入れておくという一見非合理的な行動の背景には、クレジットカードより先にEコマースとアリペイが先に普及し、消費者は多少手間がかかっても取引の「安全」を保証するアリペイに価値を感じるという、中国固有の事情がある。従って、すでにいつもあるアリペイ残高を数クリックで余額宝に移すだけで、これまでのアリペイと同様に使える上にかつ利息がつくというのだから、消費者が殺到するのも当然だろう。

ネット上の決済市場で圧倒的な市場シェアを持つアリババが、満を持して金融業界に黒船として参入したのがこの余額宝といえる。高コストの店舗網を持たず、何億というネットユーザをすでに顧客として抱えるアリババの金融業界への参入は、既存金融機関にとっては大きな脅威として受け止められている。

一方で、これまで既存金融機関が相手にできなかった小口消費者を、コスト競争力に勝るネットの力で、新たなユーザとして取り込んだビジネスモデルであることも事実である。余額宝ユーザの80%は30歳以下の若年層で、余額宝のユーザ当たり平均購入残高は約65,000円(4,300元)。一般金融機関で販売するMMFの顧客あたり平均購入残高が750,000円(50,000元)以上であることからみても、これまで理財商品にはあまり縁のなかったユーザ層をとらえたサービスであることがわかる。MMFのみならず、今後は様々な金融商品もアリババは販売していくだろう。

また、アリペイの利用シーンは、すでに単なるオンラインショッピングの決済手段だけでなく、公共料金の支払いや個人間決済にも広がっており、既存金融機関の領域を急速に侵食している。アリペイを用いた取引総額は2013年初頭で1日900億円(60億元)と言われており、単純計算でも年間約30兆円。市場の伸びを考慮すれば今では40兆円近くに達しているだろうから、中国ではGDPのなんと5%強に相当する取引がすでにアリペイで行われていることになる。

もはやアリババは単なるEコマース企業ではなく、中国を代表する金融機関の顔も持つ企業と言っていい。銀行という巨大かつ参入障壁の高い伝統産業に、わずか10数年前に生まれたネット企業が大きな風穴を空ける。そんなダイナミックなうねりをアリババは創りつつある。

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この記事の著者

北川 伸明
取締役 中国法人代表

国内大手携帯キャリア企業にて経営企画部門・海外投資事業部門に所属し、海外の大型M&A等に携わる。
2006年5月、サイバーエージェント・ベンチャーズ入社。
海外投資担当として同社の海外進出を牽引する。
2008年4月より海外投資担当取締役に就任し、同6月の北京事務所開設と同時に、中国事務所の総代表にも就任。
Vatgia(ベトナム)、Tokopedia(インドネシア)及びKakao(韓国)等への投資を実施し、中国、東南アジア、韓国の海外投資事業全般を管轄する。
一橋大学経済学部、及び米国ジョージタウン大学経営大学院卒。